無口な70歳のアドリアンは、スイスの大自然に囲まれた土地で干し草を作り、牛の世話をして暮らしていた。日々の生活で彼が話をするのは、数人の親しい友人のみ。山から滅多に下りることのない彼だが、友人レオンの提案で3年ぶりに中国へ列車の旅に出る。ジュネーブでレオンの甥ロジェが加わり5人になるが、彼のことを以前から好ましく思っていなかったアドリアンはたちまち不機嫌に。ドイツ、ロシア、モンゴルに立ち寄り中国を目指すが、それぞれの事情で1人また1人とスイスに戻っていく。旅の発起人レオンまでも、持病が悪化して帰ってしまう。ついにロジェとアドリアンの2人になるが、そのロジェも車内で知り合ったモンゴル人女性に恋をし、列車を降りた彼女の後を追う。ロジェと一緒に彼女の家を探し当てたアドリアンは、彼を残して旅を再開する。最終目的地である中国に辿り着き、そこでレオンの死を知った彼は、妻や家族に先立たれた自らの境遇とこの旅とを重ね合わせていた。
|
国内面積の小さなスイスでロードムービーが製作されることは珍しいが、この『雲の南側(仮)』は本国で大変人気が高い。スイスのアカデミー賞であるスイスフィルムプライズで、2004年の最優秀フィクション賞にノミネートされた。豊かな自然と動物に囲まれた山で暮すアドリアンらは、独特の常識や考え方を持っている。そんな彼らは旅の中で、都会の新鮮さを味わうが、結局は山へと戻っていく。主人公のアドリアンは常に不満げな表情で、気にくわないものに対して嫌悪感をあらわにする不器用な人間。実は妻や家族に先立たれた哀しみから逃れられず、逆に自分の感情を押し込め、心を閉ざして生きてきたのだ。自分の殻から踏み出すことを頑なに拒んできたアドリアンが、一人になってもなお旅を続ける。中国に辿り着き、自分の人生を振り返ったときの彼の感情と表情はわずかに変化している。雄大な自然や色彩豊かな民族衣装、独自性に富んだ民族音楽など、スクリーンを通じてヨーロッパからアジアへの旅を体感できる。















