1920年代終わりのロッテルダム。運河沿いの貧しい地区にある荒れ果ててはいるが、荘厳な雰囲気を漂わせる一軒の屋敷。 その家の床には死体が横たわっている。その傍らの廊下では、一人の若者が血を流し、息を切らしていた。彼は動転して逃げ出すが、見とがめられ、やがて逮捕される。担当の刑事は、この殺人事件の容疑者と被害者の特異な関係に興味を抱く。取り調べが進むうちに意外な人生模様が浮かび上がってくる。 殺人容疑で逮捕された青年カタドリューフェは、身分は低いながらも誇り高く生きる女性ヨバ・カタドリューフェと冷酷な執行吏ドレヴァーハーヴェンとの間に生まれた私生児であった。ドレヴァーハーヴェンはヨバが彼との結婚を拒絶したことに深くこだわっていた。彼は残虐ともいえるやり方で権力を行使し、不況下の生活にあえぐ貧しい人々は彼に恐れを抱いていた。 カタドリューフェは真面目で、堅実な青年に成長する。その後、母が下宿人を家に置いたことから、彼は社会というものにも目覚めてゆくことになる。この下宿人ヤン・マーンと出会ったことで、カタドルフは社会的にもっと上の地位を目指すようになるのだった。やがて彼は出どころのよく分からない貸付金がもとで、タバコ屋の事業を引き継ぐことになる。しかし、この事業は大失敗におわってしまう。 破産に追い込まれたカタドリューフェは、貸付を行なった銀行の支配人が実は父ドレヴァーハーヴェンであったことを知る。破産のトラブルのため、ストロームコニングの法律事務所へ届け出に行った彼は、その事務所の雰囲気にすかっり魅了されてしまう。有能で正義感に溢れる弁護士達を見て、今や彼は自分が本来目指すべきものは、弁護士なのだと決意する。今まで熱心な読書家だった彼にとって、事務所の最も知的な弁護士の一人、ドゥ・ハンクラールの目にとまるのはたやすいことだった。彼は事務員として雇われることになる。ここで彼は始めての、そして唯一の恋に出会う。想いの相手は秘書のローナ・ドゥ・ヘオルヘだった。彼はローナに強い想いを抱くが、それを打ち明けることで、自分のこれからの仕事の妨げになることを恐れる。 しかし、どんなに働いても、勉強を積んでも、彼には破産という過去がつきまとう。次第に彼は、父が自分が弁護士になることを妨げていることに気付く。父の行為にとまどう彼はかつてはあれほど尊敬していた父に深い憎しみをつのらせてゆく。感情のもつれから、お互いを殺そうとする二人。しかし、この争いは勝者を生み出さなかった。二人ともが敗者だったのである。そこに残されたものは、人と人との対立が生んだ感情の亡骸だった。
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